酒と泪と男と女

忘れてしまいたいことや
どうしようもない寂しさに
包まれたときに男は
酒を飲むのでしょう
飲んで飲んで 飲まれて飲んで
飲んで飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

忘れてしまいたいことや
どうしようもない悲しさに
包まれたときに女は
泪(なみだ)みせるのでしょう
泣いて泣いて ひとり泣いて
泣いて泣きつかれて 眠るまで泣いて
やがて女は 静かに眠るのでしょう

またひとつ女の方が 偉(えら)く思えてきた
またひとつ男のずるさが 見えてきた
俺は男 泣きとおすなんて出来ないよ

今夜も酒をあおって 眠ってしまうのさ
俺は男 泪はみせられないもの
飲んで飲んで 飲まれて飲んで
飲んで飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう
第56回定期演奏会賛助出演
Wほほじろの声

ほほじろの声きけば
山里ぞなつかしき
遠き昔になりぬ
ひとり湖のほとりにさすらいて
この鳥の歌をききしとき
ああひとりなりき
ひとりなり
ひとりにてあらまし
とこしへにひとりなるこそよけれ
風ふきて松の花けぶるわが庵に
頬白の歌をききつつ
いざやわれはまどろまん
ひとりにて

Xかもめ

ゆりかもめ
かもめのはしはなぜ紅い
あなかしこ
ほそら姿がかわいとて
都乙女がくちつけた

ゆりかもめ
かもめのはしはなぜ紅い
あなかしこ
都乙女に逢いにいて
つい紅皿につまづいた

Yふり売り

さばよしかねー かん鯛安いよー
かえるくる 海べのそばじ
すれちがふ 賎の女が
肩なる籠に はねるいろくず
かははぎ かさご かん鯛 ぶだい
いさぎよき 魚のかずかず
宿六が きょうの海さち
山かげに 姿はきえて
潮風に のこるよびごえ
さばよしかねー かん鯛安いよー

U.多田武彦男声組曲
  『中勘助の詩から』
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T絵日傘

とおりすがりのからかさ屋
軒につるした傘の
渋の匂が気にいつて
子供の絵日傘かつてきた
みいちやん よつちやんいらつしやい
絵日傘さして遊びましよう
ぱつと開けば麻の葉に
黄色い雲や赤い雲
ところところの櫛形は
源氏こうとゆうもんよ
さしてまはせば朝蔭の
風も涼しいかざ車
横にまはせばくるくると
淀の川瀬の水車
おててつないで歌うとて
うちのお庭で遊びましよ

U椿

わしがとこから五ちよべえくれば
音に名だかい久兵衛さんの椿
まはり六尺背は二十二尺
枝もさかえりや葉もしげる

しげる葉陰にさかりの花が
二百三百しん紅に咲いて
おちたその実が目笊に五百
安いときでも一両二分にやなるとさ

V四十雀

白いほをしてたづねてきたは
どこのこがらか四十雀か
ちいくる びいくる ちいくるびい
松にうもれたこのわが宿に
ぬしと住もやれ千代までに
ちいくる びいくる ちいくるびい
まつの葉のよにこんこまやかに
ふたりすもやれ千代までに
ちいくる びいくる ちいくるびい

Z追羽根

五月の病気このかた引籠ってた姉もこの頃は 不自由ながら家のなかの用が足せるようになった。で、いよいよ足ならしに外へ出ることになり、
第一日は筋向ふのお稲荷さんへお詣りと話がきまった。姉は附添いに ヨネさんをつれて出かけた。
すぐ戻るといったのが思いのほか暇がかかるのでどうかと 気づかってるところへ ベルが鳴つた。
急いで玄関に出迎える。ユキさんがあけた格子から競技に勝った 子供みたいに得意にはいりながら、境内をまわってきた という。上出来だ。
後につづいたヨネさんが これおみやげにと 手にもった 羽根をすこしあげるようにして私にみせた。露店で買つてきたのだ。

いち夜あければ初春の 夢を追羽子いたしましよ
羽子板もって紅つけて ひとりきなきなふたりきな
ふるや振り袖裾模様 帯は金襴たてやの字
黒のぽっくり鈴ちろり 見にもきなきなよってきな
まるいむくろじ白い羽根 蘂のすが絲青や赤
それ花のよに実のやうに ちょんとつかれて空高く
あがるとすれどくるくると つちにひかれて舞ひおつる
乙女の夢の追羽子を 吹きてちらすな春の風



涙そうそう

古いアルバムめくり ありがとうってつぶやいた
いつもいつも胸の中 励ましてくれる人よ
晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
おもかげ探して よみがえる日は 涙そうそう

一番星に祈る それが私のくせになり
夕暮れに見上げる空 心いっぱいあなた探す
悲しみにも 喜びにも おもうあの笑顔
あなたの場所から私が
見えたら きっといつか 会えると信じ 生きてゆく

晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
さみしくて 恋しくて 君への想い 涙そうそう
会いたくて 会いたくて 君への想い 涙そうそう